この時計は価値がありますか【盛岡北店】

先日若い男性が「この時計は価値がありますか。」と腕時計をお持ちになりました。
それは小さなビニール袋に入った、いかにも年代物の腕時計と小さな紙が入っていました。
古い腕時計をお持ちになる方は「この時計は価値がありますか。」に続く言葉は
「いいものだと言われて譲られたのですが修理するほど価値はありますか。」
「ええっ！修理するとそんなにお金がかかるのですか。
そんなにお金をかけられないです。そのお金で新しい時計が買えるじゃないですか。」と言う方がほとんどです。
ところがその時の腕時計は、１週間前の日付が記された分解掃除明細がついていたのです。
初めての出来事に驚きながら腕時計をよく見ると大きさは直径35㎜程の18金ケース、白文字盤で新しい革ベルトがついていました。
「良い時計ですね。価値がありますよ。分解掃除もお済みですし、また長く使えると思いますよ。」と言うと男性は安心したように笑顔を見せました。「でもどうして今日は当店へいらしたのですか。」とお聞きすると「実は。」と少しうつむきながら話してくれました。

※画像はイメージです。

男性がそれまで愛用していた腕時計が壊れたので、家の中に腕時計がないかと探していると
普段開けない引き出しから、ベルトがボロボロになったこの腕時計を見つけたそうです。
家族に見せると亡くなった祖父の物だ。使うならあげるよと言われ、もらったそうです。
長い間手入れもされず眠っていた腕時計は調子が悪く、
地元の時計店に相談したところ、なんと分解掃除見積もり数万円という提示をされたそうです。
その金額に驚く男性でしたが「価値のある良い時計だから直した方がいい。」と店主にすすめられ分解掃除に出しました。

1か月後、分解掃除から戻ってきた腕時計を家族に見せると
「古い時計にそんなにお金をかけるなんて。新しい時計を買った方が良かったのに。」と笑われたそうです。
男性は本当に価値のある時計なのだろうかと思い当店へいらしたそうです。

もとから時計が趣味という人とは違い、数万円の分解掃除代金は、大学生くらいにみえた男性に高く感じたと思います。
どうしてその場で分解掃除に出すことを決められたのかお聞きすると、
祖父が遺したこの腕時計をとても気に入ったからと言いました。
腕時計は、金特有のしっとりとした肌触りと重さがあり、
白文字盤に黒いローマ数字のインデックスは年月を経た趣のある雰囲気に変化し、
それにセンス良く合わせたブラウンの革ベルトは、店主が選んでくれたそうです。
そしてキチンとオリジナルの18金の尾錠がついていました。
男性の祖父さまは天国から、男性が腕時計を見つけ、時計店の店主が丁寧に手入れをしてくれたことを見ていたでしょうか。
ご自身が大事にしていた腕時計を孫の男性が腕につけるのをとても喜んでいるのではないでしょうか。
乾雪の降る冬の夕暮れ、腕時計の金色があたたかく輝いて見えた出来事でした。