これだけ押さえればあなたも着物通!着物生地を見分ける上で知っておきたい素材5選
あなたにも分かる!着物生地の基準をご紹介
着物の購入やお手入れを考えた時に、まず最初に理解しておきたいのが着物の素材です。
「着物生地は呼び名が沢山あって、覚えられない」という印象を持たれている方も多いと思いますが、そのモヤモヤを一気に解消します。
お料理で例えると分かりやすいのですが、着物の生地を構成しているのは”素材=糸”です。
つまり、「何の糸で出来ている生地なのか?」これさえ分かれば着物生地について一気に理解が深まります。
素材に置き換えると着物生地は、絹・麻・綿・ウール・ポリエステルのたったの5つに分類できます。
これら5つの素材はの素材は洋服にも使われているので、
「綿は肌に優しい」
「麻は涼しい」
「シルクは高級感がある」
「ポリエステルはアイロンいらず」
など、あなたも何となくイメージをお持ちなのではないでしょうか?
こちらのコラムでは、着物生地を構成する素材として、代表的な5つの繊維
絹・麻・綿・ウール・ポリエステルをご紹介していきます。
この5つの繊維を理解することで、それぞれの特徴やどのようなシーンに相応しいか?
判断の基準を持つことができ、着物についての理解がグッと深まり、生地を見分ける基本が養えますよ。
絹・麻・綿・ウール・ポリエステル素材の特徴
正絹 | 麻 | 綿 | ウール | ポリエステル | |
---|---|---|---|---|---|
印象 | 高級 | 涼し気 | 身近 | あたたかさ | 絹と遜色ないものも |
手触り | 滑らか | 繊維が強い | 洗濯する程馴染む | 毛羽感 | 均一 |
着付けのしやすさ | 普通 | 容易 | 容易 | 容易 | 難しい |
季節感やTPO | ALL・フォーマル | 夏・オシャレ着 | 普段着 | 普段着 | ALL |
仕立て | 単衣 | 単衣 | 単衣 |
【正絹】
(素材と呼び名)
正絹とは絹100%の生地を指します。絹糸は蚕の繭から採取します。蚕を育てている人は、大切な着物の素材となる蚕のことを「お蚕さん」と呼んでいました。一着の着物を仕立てるのに必要なお蚕さんは3000~4000頭とも言われています。
絹糸をひく段階で、繭のより分けが行われ、同じ絹由来の糸でも呼び名が変わります。ここでは生糸と紬糸を覚えておきましょう。
最も上質な絹とされるのが生糸。上質な繭から採取した繊維が長いものになります。
生糸から織られた生地は、振袖や留袖、訪問着などフォーマルの式典で着用される着物に用いられます。そのしなさかさ、ドレープ感、角度によって異なる光沢はフォーマルにピッタリです。
対して、繭の段階で生糸には適さないとされた繭を紡いだのが紬(つむぎ)糸で、
紬の着物が「フォーマルではないオシャレ着」とされているのも、生糸のような光沢や滑らかさとは別の、節があって独特の落ち着きがある風合いを持つところからです。
但し、紬糸100%のものも絹由来ですので、正絹と呼びます。このあたりが混乱してしまいやすいところでもありますが...。
正絹とはお蚕さんから採取した絹100%の混じりけのない生地。
生糸も紬糸も両方のことを指します。
(着用時期)
絹は年間を通して着用できる着物です。夏には絽や紗といった糸と糸の間に空間をつくる織り方で透け感を出した生地もありますし、絹は保温性も高いので冬は暖かく感じます。
(TPO)
振袖、留袖、訪問着など式典で着用される代表的なものは正絹です。(お手入れの観点からポリエステル製のものもあります)。こうした着物はフォーマルシーンで着用するものですので、晴れ着とも呼ばれます。
また、オシャレ着としての絹の着物も多くあります。小紋や紬などはフォーマルシーンではお召しになれませんが、オシャレ着として日頃からちょっとしたお出かけなどに楽しんでいただけます。
(メリット)
「着物は三代着られる」という言葉を聞いたことがありませんか?保存状態が良いと絹の着物は本当に三代着用することが可能です。
また、染料の発色が良く、繊細な図案を美しく表現することができるので、豪華さや繊細な模様を表現豊かに視覚化することができます。麻や綿、ウール素材では難しいような緻密な意匠を着物に描くことができるので、晴れ着と言えば、ほぼ絹製のものを指します。
(印象)
上品、高級感、上質さ、豊かさといった印象があります。また、生地独特の下にしなる感じやドレープ感が出るので、柔らかな曲線が身体に沿い、女性らしさを引き立たせます。
(デメリット)
絹で最も懸念するのは雨、つまり水に弱いことです。クリーニングは基本的に専門店に依頼するのが良いでしょう。
また、光にも敏感で、蛍光灯にも焼けるため、保管は光が当たらないところで行うのがポイントです。
【麻】
(素材と呼び名)
麻は植物由来の生地になります。ひとくちに麻と言っても、上質なものは亜麻ではなく苧麻(ちょま=別名カラムシ)と呼ばれる植物から繊維を採取しており、「上布(じょうふ)」と呼ばれます。
産地の名前を付けて越後上布、能登上布、八重山上布などと呼ばれ、特に越後上布はユネスコ無形文化遺産登録され、国重要無形文化財指定となっています。
麻織物の中でも高級品を上布と呼ぶことを知っていれば、お値段と照らし合わせた時の基準にもなるのではないでしょうか?麻については、「上布」を知っていれば、あなたも着物通です(^^♪
(着用時期)
麻繊維から織りあげられた生地は透け感があり、吸湿性、通気性に優れています。7、8月を中心とした夏のオシャレ着として用いられますが、最近では気温上昇もあり、着用される方の好みで6月~9月頃まで着用されています。
夏の着物としても勿論ですが、長襦袢や帯を麻にするとより涼しく過ごせます。
特に暑がりの方は、麻の長襦袢を春頃から秋口まで着用されている方もいらっしゃいます。
(TPO)
麻の中でも「上布」がたいへん高級であることは先述した通りですが、TPO的には式典には適さず、あくまでもオシャレ着の分類となります。ここが非常に難しいところでもあるのですが、結婚式などの式典には適さないので注意しておきましょう。
(メリット)
吸湿性・速乾性・通気性に優れており、水洗いが可能なため、ご自宅でお手入れが出来るというのが最大のメリットです。
夏場は他のどの季節よりも着物に汗がつきやすい時期です。特にお腹周りや帯周りに溜まりやすく、そのまま放っておくと汗の中に含まれる塩分が白く浮き出てくる場合があるのでこまめにチェックしたいですね。
絹は水に弱いのですぐに洗うことは出来ませんが、麻はご自宅でお手入れが出来るので、夏着物として着用した後にすぐに洗える点は最大のメリットです。
但し、ものによっては縮む場合もあるので、ご自宅で洗濯をされる場合には自己責任でお願い致します。
(印象)
植物由来の独特の節があり、絹や綿に比べるとしなやかな強さがあります。
シャリ感、ハリ感があるため、肌に張り付かず、空気が通りやすいので、夏の熱い時期には見た目の涼しさを引き立たせてくれます。
(デメリット)
麻を扱う際の最大の注意点は、シワになりやすいことです。長時間の正座の席などでは、他の生地に比べると膝裏にシワがよりやすいです。
また、ご自宅で洗濯などのお手入れをした場合には、生地をしっかり縦方向横方向に伸ばしてシワをとりましょう。
他にも、繊維が頑丈な為、肌が敏感な方には当たりが強く感じられることがあるかもしれません。そのような場合には、直接肌に触れる長襦袢を避け、肌に触れない着物や帯に取り入ることをおすすめ致します。
【綿】
(素材と呼び名)
木綿は植物由来の生地になります。綿花から採取する繊維で、コットンと言えばピンと来る方も多いのではないでしょうか?
また、私たちが思い浮かべる綿着物の代表格は「浴衣」です。(細かく言えば、絹・麻などの糸を組み合わせて織られた生地もあります。)
ですので、着物初心者さんに分かりやすく表現するのであれば、木綿の着物は浴衣のような雰囲気の着物ということになります。
木綿は絹に比べると糸が太く、重量があるため、織りあげた生地は丈夫になり、裏地を付けない単衣仕立てが一般的です。
産地の名から、伊勢木綿、片貝木綿、会津木綿などが有名です。
また、木綿と名はついていませんが、阿波しじら、久留米絣なども木綿着物になります。
(着用時期)
年間を通して着用できる木綿着物ですが、織りあげた際の生地の厚み、手触りによって使い分けると良いでしょう。一般的に単衣仕立てなので、寒い時期には向かないですが、日本は南北に長い国ですので、お住まいの地域によっても異なります。基本的には春秋にお召しになるのが最適、阿波しじらに限っては独特のシボがあり、通気性が良いので夏を中心に楽しめます。
(TPO)
木綿はオシャレ着、普段着の分類となります。伝統工芸品に指定されていたとしても結婚式などの式典には適さないのでプライベートで楽しみましょう。
(メリット)
木綿着物は糸が太く丈夫なので、普段着で飾り過ぎない装いにピッタリです。下着によく使われる素材ですので、肌に優しいのも特徴で、吸水性・通気性に優れているため、ご自宅でのお手入れ(洗濯)も可能です。但し、洗濯に関しては色落ち、縮みが生じる可能性があるので自己責任の範囲でお願いします。
絹の着物に比べるとお手頃価格なのも魅力のひとつです。
生地がツルツルと滑らないので、初心者さんにとっては着付けも非常にしやすいです。
(印象)
ほっこり、家庭的、親しみがわく、気取らない、飾りすぎない印象を与えます。上品な着物を社交の場で着るのとは別で、こうした木綿の着物を普段から着ていると、本当に着物好きなのだなぁという印象を与えます。
(デメリット)
先述した通り、ご自宅でお手入れできるものですが、染料によっては色落ちしやすいものもあるのでお洗濯には注意が必要です。特に白に近い薄い色地に濃い色を入れて彩色してあるものについては、地色に濃い色が付いてしまうこともありますので、充分注意してください。
また、比較的シワになりやすいことも挙げられます。
【ウール】
(素材と呼び名)
ウールは動物由来、羊の毛から採取した繊維です。羊の毛なので繊維の長さは短く、表面に細かい繊維が出るため、独特の毛羽立ち、ふっくら感、触った時に肌で感じる凹凸感があります。
着物としてのウールの歴史は意外に浅く、昭和に入ってから着物の繊維として広く使われるようになりました。
普段着物、日常着の部類ですが、羽織と着物を同じ生地でつくったウールのアンサンブルは一時期流行し、お正月に着用されることが多かった時代があります。
また、ウール100%だけでなく、綿や絹との交織(組み合わせて織ること)でそれぞれの良さを活かしたコットンウール、シルクウールといった生地もあります。
(着用時期)
サマーウールもあるので、年間を通して着用できる素材ですが、おススメは秋冬の10月~2月頃です。保温性にも優れているので、冬はとても暖かいです。
生地が丈夫なので、裏地をつけない単衣(ひとえ)仕立てが一般的です。
(TPO)
ウールの着物はより普段着に近い日常着と言えます。日頃から和服で生活している方が家事をするにも適しています。また、ちょっとしたショッピングやお友達とのお茶会などにも良いですが、少し華やかなパーティーや社交の場などにはあまり向かないでしょう。
(メリット)
ウールは汚れがつきにくく、自宅で洗濯出来ます。この点では、普段着ている洋服とほぼ変わらないので、日頃から洋服で過ごす私たちにとって、非常に受け入れやすい着物です。
お値段も絹の着物に比べると安価ですので、沢山着て、汚れたら洗濯して…と、普段着として楽しむのが適しています。
また、シワになりにくいのも特徴のひとつで、ウールの着物はアイロンいらずと仰る方もいらっしゃいます。
絹のような滑らかさはないので着付けがしやすい点もメリットのひとつです。
(印象)
優しい、ほっこり、味わい深い、古風、家庭的、親しみがわく、気取らない、印象を与えます。また、最近ではあまり着用されていない素材なので、素材に通じ、ものを大切にする人、ご自身の感覚を大切に楽しんでいる人という印象も与えます。
(デメリット)
水に強く汚れもつきにくい、自宅で洗濯出来るという良いところだらけのウールですが、1点気をつけたいポイントが「虫食い」です。
保存の際に絹の着物などと一緒に保管してしまうと、ウールについた虫が他の着物にうつってしまう可能性がありますので、保管は他の着物と別にしておきましょう。
とても丈夫な素材ですので、桐たんすに仕舞う必要はなく、他の着物と分けて衣装ケースなどに入れておくと良いでしょう。
【ポリエステル】
(素材と呼び名)
ポリエステルは衣類に最も使われている化学繊維のひとつで、アクリル、ナイロンと並び、石油系の三大繊維のひとつになります。
少々化学的な説明になりますが、ポリエステルのポリは、「沢山の」という意味で、ポリエステルとは、沢山のエステル結合を意味します。
これを化学的方法によって作ることにより、生地の質にバラツキがなく、非常に均一なものに仕上がります。
少し余談になりますが、あなたもペットボトルからフリースが出来ることをご存じでなのはないでしょうか?化学の力の凄いところは、私たちの目には全く異質に映るものでも、そこから「エステル結合」を取り出すことにより、別の素材に生まれ変わらせることが可能なのです。
(着用時期)
ポリエステル繊維の生地は年間を通じて使用されます。着物をはじめ、帯や長襦袢、下着に至るまで普及しています。但し、天然繊維のような吸湿性がないため、夏場は熱を逃がすことが出来ず、暑さを感じやすかったり、冬場には静電気が起きやすく感じられるかもしれません。
(TPO)
ポリエステル素材は常に進化し、現代では一見すると絹と変わらないようなものもあります。1970年以降に普及した新しい素材ですので、昔からの素材の位置づけに加わる形になり、見た目に絹と変わらないものは、成人式や結婚式などのフォーマル着物として扱われているものも多くあります。
(メリット)
生地の均一性により、シワがつきにくい、自宅での洗濯が可能、生地が丈夫というメリットがあります。
中でもポリエステルを選ぶ方の決め手は、「洋服と同じように洗濯機で洗濯ができる」という点ではないでしょうか?
着物が日常着ではなくなった今、この点は非常に大きいと感じます。
また、麻や綿などの天然素材の中でも洗える着物生地と比べても縮みなどの心配がほぼありません。
また、天然素材に比べると安価で手に入れやすいというのも購入する際のメリットになります。
(印象)
最近では絹と遜色のない見た目のものもあり、発色も良いので鮮やかで艶感があるものが多いです。ただし、非常に目が肥えた人には、絹との違いが分かるかもしれません。
(デメリット)
ポリエステル素材の最大の注意点は、天然素材に比べて通気性がないことです。この点で真夏には熱がこもり、暑さを感じたり、真冬にはあまり暖かさを感じないことがあるでしょう。
また、見落としがちですが、生地が均一ということは、着付けの際に摩擦がなく、非常に滑りやすいという特徴があります。
この点で、初心者にとっては着物の着付けはツルツルと滑りやすく、帯結びが緩みやすいことが挙げられます。
セット売りになっている浴衣の帯などはポリエステル製のものが殆どで、繊維の特徴を知らずに購入し、「帯結びは難しい」という印象を持たれる方もいらっしゃいますので、その点は注意が必要です。
どうやって見分ける?着物生地の具体的な見分け方
ここまで素材の紹介をしてきましたが、店頭に並んでいる着物や、人から譲り受けた着物を見分ける方法はあるのでしょうか?
結論から言うと、それなりの経験が必要ではありますが、見た目の艶感、触り心地などから、ある程度判断することは可能です。
判断の基準を複数持っておくことで、着物生地をより正確に見分けることが出来るようになります。
これからご紹介するのはそれぞれ素材100%ものの判断基準としてください。というのも、生地の中には交織と言って、糸を組み合わせて織られた生地があります。その場合には複数の素材が組み合わさったような特徴が出ることになり、かなりの目利きが必要となります。
絹とポリエステルの見分け方
見た目に光沢がある着物、角度や照明によって輝きがある着物は絹、またはポリエステルです。
絹とポリエステルの違いは、触った時のなめらかさと熱伝導率で判断できます。
ポリエステルに比べると絹の方が触り心地が滑らかです。
また、ポリエステルは熱伝導率が悪いので、生地を両手で挟んでみて、ぬくもりが伝わるものが絹、伝わりづらいと感じるものがポリエステルです。
他にも仕立てで判断する方法があります。絹もポリエステルもオシャレ着からフォーマルまで広く使われますが、ミシン仕立てのものはポリエステルの可能性が非常に高いです。
最後にどうしても判断できない場合ですが、いただいた着物などで端切れがある場合にはそれをほんの少し燃やしてみると判断できます。ポリエステルは燃えた後に硬くなるのが特徴です。
ウールの見分け方
肌ざわりで判断できるのはウールの着物でしょう。全ての着物の中でザラザラ感、チクチク感が最も強いのがウールです。
また、繊維が短い為、生地に近づいてよく見ると、小さな毛羽立ちがあるのも特徴です。
他にも、畳んだ時の厚みが他の着物に比べて厚いので、畳んだ状態で比べてみるのもひとつの基準です。
麻の見分け方
麻の見分け方は比較的容易です。まず、生地を透かしてみて透け感があるもの、生地にハリ感を持ったもの。また、手触りは他の着物に比べると少し硬い感じがします。
綿の見分け方
綿生地も慣れればわかるようになりますが、素材の特徴から判断するならば消去法を使えば分かります。
まず、見た目に艶感がないもの。次に麻のようにハリ感がないもの。ウールのように細かな毛羽がないものが木綿です。柄付けは浴衣と大きく異なりますが、手触りなどは浴衣に最も近いものが木綿と言えるでしょう。
まとめ
いかがでしたか?今回のコラムを参考にして、着物生地の基本的な部分をご理解いただけたのではないでしょうか?
素材を知っているだけで、着物の保管方法や洗い方で失敗することがなくなるはずです。見た目で判断できること、手触りで判断できること、ひとつひとつの経験があなたと着物を更に結び付けてくれるでしょう。
お手元にある着物の素材を理解し、正しい方法で管理することで着物の寿命は格段にのびますし、これからお迎えする着物についても同様のことが言えます。
洋服も和服も素材と言う点では大差はありません。是非これからも着物を理解し、親しみを込めてお手入れまで行っていただけましたら幸いです。